椎間板ヘルニアの多くは自然に治る!?
椎間板ヘルニアとは
椎間板症(腰部椎間板症)がより悪化して、すなわち押しつぶされた髄核が、周囲の線維輪を突き破り飛び出した状態を「椎間板ヘルニア」といいます。
※ヘルニア(hernia):体内の臓器などが飛び出した状態を指します。
椎間板ヘルニアの原因
加齢や長期にわたる腰への負担の蓄積などにより、椎間板の形や質が変化(椎間板の変性)し、クッション性を失うことで起ります。
そのような状態にある中、体重や衝撃などの負担がかかることで、押しつぶされるようなかたちで椎間板から飛び出した「髄核」が、近くにある神経に触れて「強く圧迫」するために、「神経が傷ついたり炎症が生じ」たりして様々な症状が現れます。
椎間板ヘルニアの症状の特徴
椎間板ヘルニアは、ぎっくり腰のような急な激痛ではじまる"急性型"と、腰に鈍い痛みがしつこく続く"慢性型"があります。
- 腰痛以外の、足やお尻のしびれ(坐骨神経痛を伴う)
- 急激な腰と脚(片方の足に症状が出ることが多い)の痛み
- 痛みやしびれは、腰の前屈動作(前かがみ)や椅子に座った時に強くなる
- 鈍い腰痛が慢性的に続く
- お尻から太ももの外側・後ろ側、膝~足首までの外側、時にはつま先までと広い範囲に及ぶ
切開せずに行える治療として、「レーザー治療」が行われることもありますが、「レーザー治療」でよくなるヘルニアのタイプは非常に限られていますので、受けられる前に整形外科専門医によく相談することが大切です(引用:一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会)
馬尾(ばび)症状
症状が進むと脚(下肢)の力が入りにくくなり、ちょっとしたことでけつまづく(痛みでまともに歩けない)といった運動障害が起ります。
足に力が入らない(脱力感)、足首のところで足を上げられない(筋力低下)、つま先立ちできない、膝の下やアキレス腱を叩いた時の反射的な動きが鈍る(腱反射の低下・知覚の鈍化)、歩くと足の痛みやしびれが増し、休むと治る(間欠性跛行)、排尿障害など。
※排尿、排便障害が出てくるのは、脊髄から続く神経の束である「馬尾神経」の損傷によるものです。両足やお尻のまわりにしびれやマヒが出たり、「尿がでにくい、尿がもれる(失禁)、おしっこの回数が増える(頻尿)、ひどい便秘などがあり、これらを馬尾症状といいます。
椎間板ヘルニアの痛みが出る主な場所
腰椎で最も力がかかりやすいのが、腰椎の上から4番目から5番目になります。
そのため腰の椎間板ヘルニアの約90%はこの部位及び第5腰椎と仙骨の間の2カ所でよく発症するといわれます。
腰椎の4番目と5番目の間の場合は、お尻から太もも、ひざ、足の親指に達する痛みと、足の親指と人差し指の間に物が挟まったような違和感があります。
腰椎の5番目と仙骨の間ですと、太ももの裏側から小指にかけて痛みがあり、つま先立ちができず、外くるぶしの下にしびれなどの違和感があります。
椎間板ヘルニアの痛みが出やすいのはどんな人?
概して言いますと、20代から50代の働き盛りで、腰に過剰な負担や疲労の蓄積の多い人に症状が出やすいようです。
- 姿勢が悪い(前かがみの姿勢が多い)
- 長時間同じ姿勢(立ちっ放し・座りっぱなし)
- 体の強いひねりを伴うスポーツ(野球、ゴルフなど)選手やダンサー
- 何度もぎっくり腰を起こしている人(徐々に椎間板が背中側に突き出していく)
- 肥満気味の人(足腰への負担が大きい)
- 身長の高い人(腰を曲げたときの付加が大きい)
- タバコをよく吸う(ニコチンの欠陥収縮作用で血流が悪くなり、椎間板の変成を促進)
- (その他、遺伝的要素等)
椎間板ヘルニアの治療と改善法
ヘルニアがあっても、腰や足の痛み・しびれ・軽度のマヒ程度の症状であれば、ただちに手術を行うことはなく、まずは保存的療法(手術を行わない治療法)を行い、痛みを抑えながら様子をみるのが一般的です。
近年の研究によると、ヘルニアによって神経が炎症を起こすとマクロファージ(白血球の一種。強い捕食作用を持ち、体内の異物や死細胞を除去する)が分泌され、このマクロファージがヘルニアを異物として除去してくれるという事です。病院の画像診断で椎間板ヘルニアが見つかったときに『ちょっと様子を見てみましょう』言われるのはこのためで、しばらくするとヘルニアがなくなり、自然治癒することがある。
基本的な治療法
痛みが激しい時(急性期)は、一番楽な姿勢になって安静にすることが第一です。
静かに横になり軽く足を曲げて寝ると痛みが和らぎます。
仰向けに寝るなら膝の下に座布団やクッションをあてて、ひざを立てると楽になります。
痛みがおさまったら整形外科で診察を受けましょう。
(避けるべき行為や姿勢)
・前屈動作:前かがみの姿勢、腹筋運動
・あぐらをかく
・やわらかい椅子やクッションに座る
・くしゃみ(ぎっくり腰になることがあります)
自然に良くなるまでの間、様々な治療法で痛みなどの不快な症状を抑えます。
基本的には、腰が痛む姿勢を避けるよう徹底しつつ、痛み止めや炎症を抑える薬を服用する「薬物療法」、患部を温める「温熱療法」、体操やストレッチなどの「運動療法」を中心に行います。
場合によっては、腰用のコルセットをつけるなど、腰に負担をかけないようにすることで、数週間で痛みが軽減してきます。
痛みがひどい急性期や、症状が長引いたり悪化した場合は、神経に麻酔薬を注射する「硬膜外・神経根ブロック」、腰を物理的にひっぱる「牽引療法」なども行われます。
症状によっては入院して治療を行います。
※どうしても手術が必要な重症のケースを除き、2年から10年という長いスパンで見ると、ヘルニアの手術をしてもしなくても、腰痛の回復具合に差がなかった(もしくは手術をしない方が経過が良好)という調査結果もあります。
保存的療法でも手術でも良くならない場合がある?
慢性的な腰痛の裏にあるもの?
ヘルニアによる神経の圧迫が見られ、保存的療法を3か月以上続けても、手術によってヘルニアを取り除いても症状が改善しないような場合があります。
これらは、現代医学では最早当たり前として理解しうるところです。
つまり、心の問題が原因である可能性が高いいうことです。(心因性腰痛)
「腰痛診療ガイドライン2019」(監修・日本整形外科学会、日本腰痛学会)によりますと、「腰痛の治療成績と遷延化には、心理社会的因子が強く関連する」と指摘されています。精神的な外傷やストレスなどの心の問題が腰痛に大きく関係していることは事実でしょう。人間関係のストレスや自分の仕事に対する評価、家庭内の不和など、さまざまな問題がストレスとなって腰痛を増悪させていると考えられています」
「心因性腰痛(シンインセイヨウツウ)の場合も、まずは腰部の痛みをとる薬物療法を試みます。使用する薬物は、主に非ステロイド性消炎鎮痛薬が処方されますが、精神的、心理的な要因を改善するためには、抗うつ薬が有効なケースも多数あります。
そうした薬物療法などと並行して、心理的療法やカウンセリングなど、心療内科や精神科での治療を行ったほうが良い場合もあります。ストレスの受け止め方は個人差がありますが、心因性腰痛になりやすい人は、ストレスを上手に受け止められない傾向もあります。
そのために、患者さん自身が生活環境を変えたり、ストレス解消ができるように努力する事も重要な対策となるでしょう。家族や周囲の人の理解も不可欠でしょう。患者さん自身は、こんなに痛むのに理解してもらえないなどと、孤独感や怒りや不安、不満を抱え、これが痛みをさらに悪化させることもあります。理解している事をきちんと丁寧に伝えて、態度で示す事を心がけましょう」