一流のスポーツ選手を悩ますケガ 靭帯損傷
スポーツ選手には怪我はつき物ですが、靭帯損傷も膝のスポーツ外傷の中では多くて、このケガによる一流選手の離脱と復帰が良く話題になります。
例えば、
男子フィギュアスケートのエースこと高橋大輔選手は、2008年10月末の練習中に右足膝の「前十字靭帯と半月板を損傷」し、2008年から2009年のシーズンの全大会の出場を断念して11月に手術。
(長い苦しいリハビリ生活終え、復活後全日本選手権で優勝。バンクーバーオリンピックでは日本人シングル初のメダルとなる銅メダルを獲得。その後行われた世界選手権では日本人初の世界チャンピョンとなりました)
※ソチオリンピックの代表にも選出されました。
元ソフトバンク(野球)の小久保裕紀選手は、2003年の3月6日、西武とのオープン戦でホームにスライディングした際に椎木匠捕手と交錯。
右膝の「前十字靭帯断裂」「内側靭帯損傷」「外側半月板損傷」「脛骨・大腿骨挫傷」という重傷を負いました。
(2004年には復帰。シーズン40本塁打を達成)
柔道家で「平成の三四郎」と呼ばれた古賀稔彦は、1992年バルセロナオリンピックの代表の1人でした。
試合前、同じ代表選手である吉田秀彦とのけいこ中に左ひざを負傷。
靱帯損傷で全治1カ月の重症を負いました。
(結果は見事金メダルに輝きましたが、心身ともにギリギリの状態で成し遂げられた伝説となっています)
靭帯損傷(じんたいそんしょう)とは
靭帯は、関節の骨と骨を繋いでいて、関節の動きを滑らかにしたり制限したりする、強靭で弾力性のある繊維性の組織です。
ひざ関節には、以下の4本の靭帯があります。
前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)
後十字靭帯(ごじゅうじじんたい)
内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)
外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)
これらのひざの靭帯に、外から何らかの大きな力(衝撃)がかかることで、部分的にあるいは完全に切れてしまうことがありあります。
これを膝靭帯損傷といいます。
上記のどの靭帯が損傷するかは、ひざに加わる外力の方向によって違ってきます。
通常は単独での損傷が起こりますが、複数の靭帯が同時に切れる複合損傷となる場合もあります。
4つのひざ靭帯の役割と損傷
[前十字靭帯]
前十字靭帯の役割は、運動の時にすねの骨が前に飛び出したり、ぐらついたりするのを防いでいます。
前十字靭帯損傷(もしくは断裂損傷)は、膝のスポーツ外傷の中では最も多く、バスケットボール・器械体操・スキー・ラグビー・フットボール・柔道などに多く見られます。
ジャンプからの着地、急停止、急な方向転換、ジャンプの踏み切り時などに発症します。
断裂した場合には、太ももに対してひざから下が異常に前方に移動することが見た目にもわかります。(引き出し症状と言います)
[後十字靭帯]
後十字靭帯は、すねの骨が太ももの骨の後ろの方にずれないように働きがあります。
この靭帯の損傷は、前十字靭帯や内側側副靭帯の損傷に比べて症状が重くないので、気づかれないことも多いようです。
損傷する原因には、たとえば交通事故でダッシュボードに強くひざを打ち付けたれたときや、転倒したときにすねの部分に強い衝撃を受けたときに損傷がみられます。
断裂した場合には、すねの部分が後ろに移動することが確認されます。(引き出し症状と言います)
[内側側副靭帯]
内側側副靭帯は、主に膝の外反を防いでいます。
内側側副靭帯の損傷頻度も高く、前十字靭帯損傷同様のスポーツで、ひざを外側にひねるような大きな力が加わったときに損傷しやすいです。
[外側側副靭帯]
外側側副靭帯は、役割としては膝の内反を防いでいます。
内側側副靭帯に比べると細い靭帯ですが、単独での損傷は極めてまれです。
【靭帯損傷の治療】
靭帯損傷の治療は症状の重さに応じて、「保存療法」と「手術」とに分けられます。
[装具療法を中心とした保存療法]
比較的軽度の損傷であったり、成長期(回復が早い)の場合、あるいはけがしてすぐの場合は、特別な装具を装着してリハビリを行うことで靭帯が修復する場合があります。
但し、以下の条件(制約)があります。
・スポーツをほとんどやらない人、あるいはジャンプの着地や急停止などを行わないスポーツをしている人が対象です。
・靭帯の損傷の部位が上端のみであること
・受傷後すぐに装具を装着すること
・治療期間中の角度制限などをきちんと守ること
など
※治癒しないままスポーツを続けると、膝の老化(変形性関節症)が早まるといわれています。
靭帯損傷は、突発的ゆえに完全に予防するのは難しいですが…
[手術を必要とするのは]
手術が必要となるのは、
・靭帯が完全に切れた→靭帯断裂
・複数の靭帯が損傷したり半月板などの周辺組織も損傷→複合損傷
・保存療法ではひざの不安定さがなくならず普段の生活やスポーツに支障がある場合
などです。
靭帯は完全に切れると自然に再生することはありません。
ゆえに、手術はひざ周辺の腱(けん)を切り取って靭帯の代わりにする「再建手術」が一般的に行われます。
本来、手術はかなり最終的な段階であり、判断になります。
と言いますのは、靭帯はたとえ断裂しても、患部をしっかりと固定しつつひざの周りの筋肉を鍛えれば、普段の生活や軽めのスポーツ程度なら十分できるようになるからです。(上記保存療法)
手術をすべきかどうかは、もちろん本人の状況次第もありますが、プロスポーツ選手(もしくはスポーツを積極的に行う人)や重労働者、複数の靭帯断裂や合併症(※)により保存療法では歩くのも難しいような人の場合は積極的に手術が考えられます。
(※)ここでの合併症は、靭帯損傷に半月板(はんげつばん)損傷や骨軟骨(こつなんこつ)損傷をともなうことです。
不安定なまま放置していたり、スポーツを続けると、膝に水がたまったり(関節水腫)、二次的に半月板が切れたり、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)に移行したりします。
「再建手術」を行った後は長期に渡るリハビリが必要になります。
しっかりリハビリをしておかないと再び靭帯を損傷する可能性が高まりますので、この辺をしっかりと認識して取り組むべきです。
※リハビリは必ず医師の指示に従って進めていってください。
【靭帯損傷の予防】
靭帯損傷は、膝への負担の蓄積(慢性化)で起こるケースはほとんどありません。
どちらかと言えば、割とハードなスポーツ中などで突発的な接触による急性外傷として発症することが多いようです。
突発的ゆえに完全に予防するのは難しいですが、
・スポーツ中の膝への負担を減らして怪我の確率を下げる
・膝以外の股関節など使った動きを習得する
・足だけでなく腹筋や背筋、体幹(体の中心部)のインナーマッスル(深層筋)を強化したりする
などの方法が有効です。